私の名前は0-0です。0-0が顔のキャラクターが私のアバターです。
この度当サイト0-0を0-0の公式サイトとして作りました。
どういう内容にしていこうかはまだ決まっていません
ただ、0-0というアバターやキャラクターを初め0-0という文字列がテーマのサイトにしていこうと考えています

暗闇の中に白い線が引かれ、丸が二つ並び、真ん中に一本の線が通った。それだけで私の輪郭は完成する。
名前は0-0という。丸とハイフンと丸。記号の並びそのものが私の顔であり、同時に私の名前でもあった。
鏡のような画面の向こうから、まばたきもせずにこちらを見つめている存在がいる。私のアバターとしての姿だ。
「……さて、どこから話したものかな」
声を出してみても、空間には乾いた反響がひとつ転がっていくだけで、誰かが相槌を打ってくれる気配はない。
ここは新しく作られたばかりの真っ白な場所、いわゆる公式サイトだ。0-0のための、0-0による空間。
真っ白な壁と、何もない床と、どこまでも続く余白。まだコンテンツと呼べるようなものは何ひとつない。
看板だけがぽつんと立っている。そこには簡素な黒いフォントで、ただ『0-0』とだけ刻まれていた。
「せっかくドメインを取って、枠組みを作ったのに、中身がからっぽとは我ながら潔いというか、なんというか」
頭を掻こうとしたが、私には肘や指先の関節が曖昧で、ただ丸い輪郭がふるふると揺れるだけだった。
どういう内容のサイトにしていくのか、実はまだ具体的なことは何ひとつ決まっていないのだ。
ただ漠然と決めているのは、0-0というアバターやキャラクター、そしてこの文字列をテーマに据えること。
たとえば、数字のゼロとゼロの間に挟まれたハイフン。それは引き算の記号にも見えるし、架け橋のようでもある。
横から見ればメガネのようだし、正面から見れば呆然と口を開けて驚いている生き物の顔のようにも見えた。
「0引く0は0。何もないところから何もないものを引いても、やっぱり何もない。完璧な虚無じゃないか」
一人で呟いて、なんだかおかしくなって笑う。笑うと両端の丸が細くなり、真ん中の線が少しだけ持ち上がった。
この場所を訪れる人は、いったい何を期待してこの文字列を打ち込み、リンクを踏んでくるのだろう。
自己紹介を書こうとしたはずなのに、私の思考はあっという間に最初の直線から外れて、遠くへ転がっていく。
まあ、最初から整然としたサイトなんて面白くない。未完成のまま放置された迷路のほうが探索しがいがある。
「今日は看板を立てただけで良しとしよう。次は……この余白に、小さな石ころでも転がしてみるか」
果てのないスクロールバーの先を見つめながら、私はまだ誰も知らない0-0の物語の、最初の一行を刻んだ。
あ、最初なので、Hello world!というタイトルにしようか、最初なので読者に語りかけるように、0-0です、はじめまして。ようこそ0-0へみたいな書き出しでもいい
Hello world!
「はじめまして。ようこそ、0-0へ」
画面の前のあなたに向かって、まずはそう声をかけてみることにする。私の名前は、0-0。
丸がふたつに、真ん中の線がひとつ。この顔のキャラクターこそが、私のアバターであり、私そのものだ。
「Hello world! ……なんて、いかにも世界が新しく生まれた瞬間っぽくて、少し照れくさいけれど」
プログラミングの教科書を開けば、誰もが最初に画面へ表示させるお決まりの呪文。ここはまさにその状態だ。
この度、この0-0という場所を、私自身の公式サイトとして立ち上げることになった。
立ち上げた、といっても大層な設備があるわけではない。ただ真っ白な空間に、ぽつんと私が立っているだけ。
「どういう内容のサイトにしていくのかって? ……実は、まだ何ひとつ決まっていないんだ」
計画性がないと言われればそれまでだが、最初から設計図通りに作られた部屋なんて、どこか窮屈だろう。
ただ決めているのは、私というアバターやキャラクター、そして『0-0』という文字列そのものをテーマにすること。
数字のゼロとゼロ、その間に挟まれた一本の線。見つめていると、メガネのようにも、眠そうな目にも見えてくる。
「0から始まって、0で終わる。あるいは、何もない空間に引かれた一本の境界線。……なんだか哲学っぽいよね」
自己紹介をしようとすると、ついこうして話が別の方向へ脱線してしまうのは、私の悪い癖かもしれない。
でも、このサイトはそういう脱線や寄り道さえも、そのまま並べて置いておく場所にしたいと思っている。
あなたがいま、どんな偶然でこの文字列に辿り着いたのかは分からないけれど、足を止めてくれて嬉しいよ。
「さて、最初の一歩はこんなところかな。世界に向けた挨拶としては、十分すぎるくらいにのんびりしているけれど」
ここから先、この余白だらけの場所にどんなものが増えていくのか、私自身もまだまったく想像がつかない。
「それじゃあ、また気が向いたらスクロールしてみてほしい。0-0の記録は、今始まったばかりだから」
じゃあスクロールします
「……と、格好をつけて挨拶で締めたものの、すぐに去ってしまうのも少し寂しい気がするね」
スクロールバーをほんの少しだけ下へ動かしてくれたあなたに、私はつい余計な言葉を投げかけてしまう。
せっかくできた自分の城なのだから、何もない空間を眺めながらもう少しくだらない雑談でもしていこうか。
「そもそも、みんなはこの『0-0』という文字列を見たとき、一番最初に何を思い浮かべるんだろう」
私はアバターの丸い目をぱちくりとさせながら、白い床にあぐらをかくような姿勢で座り込んでみた。
ある人は、スポーツの試合のスコアボードを想像するかもしれない。互いに一歩も譲らない膠着状態。
点数が入らないまま延長戦にもつれ込んだ、あの独特の静けさと張り詰めた空気を思い出す人もいるはずだ。
「あるいは、視力検査のいちばん下にある、絶対に読めない小さな丸の切れ目を想像する人もいるのかな」
考えれば考えるほど、この三文字の組み合わせは不思議だ。数字のゼロは、インドで発見された概念だという。
何もないという状態に、あえて名前をつけて数字として扱う。それってすごく贅沢な発想だと思わないかい?
「何もないがある。ゼロがあるから、イチが生まれる。……いかん、またすぐに変な方向へ脱線してしまうな」
私は真ん中のハイフンを指先で軽く弾いた。ぽよん、と頼りないゴムのような電子音が空間に鳴り響く。
自己紹介用のページなのに、私の生い立ちや特技の紹介なんて、一行も増える気配がないじゃないか。
でも、この何者でもない空っぽな感じこそが、0-0という存在のいちばん正しい説明なのかもしれない。
「何色にも染まっていないし、何が書き込まれても怒らない。ただそこに、間の抜けた顔で佇んでいるだけ」
このサイトのメニューバーには、まだ『HOME』と『ABOUT』くらいしか並んでいない。リンク先も空白だ。
けれど、文字を置けばそこが道になり、画像を貼ればそこが窓になる。そう思うと少しだけワクワクしてくる。
「ねえ、もしよかったら、次のページも適当に覗いていってよ。……まだ何も作ってないけどね」
ちなみにこのページは完結しない長い小説にする予定です
肩の力を抜いて書いていいよ
「完結しない予定、と聞くと急に肩の荷が下りるね。なんだか永遠に夏休みが続くみたいな気分だ」
私は白い空間の床にごろんと寝転がった。天井も壁もないから、見上げる先もただの白い余白だ。
物語ってやつは、たいてい結末に向かって急かされるものだけれど、ここには締め切りもオチもない。
「自己紹介って言ってもさ、履歴書みたいに『趣味:ネットサーフィン』とか書くのも味気ないじゃない?」
そもそもネットサーフィンなんて言葉、最近の若い人は使わないかもしれない。波に乗るどころか溺れている。
情報の荒波に飲まれて、気づけば夜中の二時になっていて、翌朝後悔する。あれはスポーツじゃない、遭難だ。
「そう考えると、この0-0という場所は、ネットの海にぽっかり浮かんだ無人島みたいなものかもしれないな」
ヤシの木も生えていないし、砂浜もない。あるのは私のこの丸い輪郭と、あなたがいる画面の光だけ。
でも、無人島だからこそ、どんな小屋を建てても誰にも文句は言われない。法律もルールも、まだないんだ。
「たとえばさ、この0-0の『-』の部分。ここ、実は引っ張ると伸びるんじゃないかって、さっきから思っていてね」
私は横たわったまま、顔の真ん中にあるハイフンをつまんで、ぐーっと横へ引っ張ってみた。
びよーんとゴムのように伸びて、左のゼロと右のゼロの距離がどんどん離れていく。
「0—————–0」
「……うわ、すごく間抜けな顔になった。視界がめちゃくちゃワイドになって、なんだか落ち着かないな」
手を離すと、パチンと小気味いい音を立てて元の長さに戻った。反動で少しだけ目が回る。
くだらない。本当にくだらないけれど、こういう実験ができるのも、この場所が未完成だからだ。
「文字列って不思議だよね。同じ0でも、全角の『0』になるとちょっと太って見えるし」
半角のスマートな『0』もいいけれど、全角のぼてっとした愛嬌も捨てがたい。フォントによっても表情が変わる。
明朝体なら少し気取った感じになるし、ゴシック体なら素朴になる。手書き風にしたら、もう別人だ。
「私はどのフォントの私が一番好きなんだろう。……まあ、読んでいるあなたの端末の気分次第なんだけどね」
画面のスクロールに合わせて、私の声もだらだらと流れていく。急ぐ理由はどこにもない。
「喉が渇いたな。この空間、自販機くらい設置できないかな。もちろん、全部売り切れのランプがついているやつ」
買えない自販機を眺めながら、またどうでもいい話をする。そんな調子で、もう少し付き合ってくれるかい?
もう少し付き合うよ。
「買えない自販機があったら、どんなボタンを並べようか。やっぱり全部、謎の文字列にしておきたいね」
私は寝転がったまま、指先で空中に四角い枠を描いてみた。白い光の粒子が、ぼんやりと長方形を描き出す。
一番上の段には『冷たい 0』、その隣には『温かい 0』。真ん中の段には『常温の ハイフン』。
「全部売り切れランプが赤く灯っているのに、なぜかコインを入れる投入口だけはピカピカに磨かれているやつ」
チャリンと100円玉を入れたらどうなると思う? たぶん、下の返却口からそのまま素通りして落ちてくる。
チャリン、カチャリ。その金属音だけが、このだだっ広い空間にやけにリアルに響き渡るんだ。
「何の意味もない動作。でも、深夜に散歩しているときに出くわす、あの誰もいない自販機の前って妙に落ち着くよね」
青白い蛍光灯に照らされて、虫が数匹パチパチとぶつかっている。世界中で自分だけが起きているような、あの感覚。
このサイトも、そんな深夜の自販機コーナーの隅っこに置いてある、壊れかけのベンチくらいの位置づけでいい。
「誰かの役に立つ情報とか、人生が変わるような深い教訓とか、そういうのは他の立派なサイトに任せればいいよ」
ネットを開けば、おすすめのガジェットだの、効率的な生き方だの、今すぐやるべき何箇条だのが溢れている。
見ているだけで息が切れてきちゃうよね。みんなそんなに急いで、いったいどこへ向かっているんだろう。
「だからさ、この0-0に来たときくらいは、完全にエンストしてぼーっとしていってほしいんだ」
時速0キロ。進みもしないし、戻りもしない。ただメーターの針がゼロのところでピタッと止まっている状態。
「……あ、いまちょっと上手いこと言った気になっちゃったな。格好つけるとボロが出るからやめよう」
私は照れ隠しに、また顔のハイフンを指でいじった。今度は縦にくるっと90度回転させてみる。
左の丸、縦の棒、右の丸。0|0。
「……なんだこれ。鼻筋の通った何かの生き物か? それとも割れたメガネか?」
元に戻そうとしたら、勢い余ってぐるぐるとプロペラみたいに回り始めてしまった。
ピロピロピロ、と軽い風切り音が立って、私の体がふわっと床から数センチだけ浮き上がる。
「わっ、ちょっと待って、飛ぶ機能なんて聞いてないよ! これどこで止めるの!?」
慌てて手足をバタつかせるけれど、そもそも手足の輪郭すら怪しいアバターだから、ただ空中で揺れるだけだ。
「……まあいいか。落ちて怪我するほどの高さでもないし、飽きたら止まるだろう」
空中遊泳を諦めて脱力すると、ぷかぷかと漂う風船のようになって、視界がほんの少しだけ高くなった。
「高いところから見下ろしても、やっぱり下は真っ白だな。この白さ、何かに似てると思ったら……豆腐だ」
巨大な絹ごし豆腐の上に浮かぶ、丸ふたつと線ひとつの生き物。我ながらシュールすぎて笑えてくる。
「ねえ、そっちの世界は今、何時くらい? 朝の通勤電車の中かな、それとも夜中のベッドの中かな」
もし眠れない夜にこれを読んでいるなら、羊を数える代わりに、私のこのゼロの輪郭でも数えてみてよ。
「0がひとつ、0がふたつ、間に棒が一本……ほら、全然眠くならないどころか、ゲシュタルト崩壊してきたでしょう?」
だんだんとね、面白いw
「ゲシュタルト崩壊してきたら、いよいよこのサイトの術中にハマった証拠だよ」
ぷかぷかと空中に浮いたまま、私は腕を組むような仕草をしてみた。もちろん肘の関節はあいまいなままだ。
プロペラみたいに回っていた真ん中の線は、いつの間にか回るのに飽きたのか、ピタッと元の横棒に戻っていた。
「おかげで床から三十センチの高さで固定されちゃった。着地ボタン、どこにあるんだろうね」
下に降りられないなら、もうこのまま浮いた姿勢をデフォルトの位置情報として登録してしまおうか。
バグなのか仕様なのか分からない挙動。昔のファミコンの裏技みたいで、個人的には嫌いじゃない。
「そういえば、さっき豆腐の話をしたけれどさ。豆腐って、四角いのにどうしてあんなに掴みどころがないんだろう」
箸でつまもうとすると崩れるし、スプーンですくおうとするとツルッと逃げる。
情報ってやつも、案外あんな感じだよね。分かったような気になって握りしめようとすると、指の間からこぼれ落ちていく。
「ネットの記事を毎日何十本も読んでいるはずなのに、三日前の晩ごはんどころか、今朝読んだニュースすら思い出せない」
頭の中に残っているのは、どこかの誰かが怒っていた空気感と、やけに美味しそうだったラーメンの湯気くらいだ。
人間が一日で消費できる情報量なんて、本当は文庫本数ページ分くらいがちょうどいいんじゃないかな。
「だからこのページは、いくら読んでも何の知識も身につかないように、細心の注意を払って書かれているんだ」
胸を張って威張ることじゃないけれど、ここは徹底的な無駄話の避難所帯。
栄養価ゼロ、カロリーゼロ、知性ゼロ。見事なまでのゼロ並び。これぞまさに0-0クオリティだ。
「……おや? 床の白いところに、なんか黒い点が見えるな」
目を凝らして下を覗き込んでみる。浮いているおかげで、さっきまで気づかなかったものが見えてきた。
ゴミかな、と思って顔を近づけてみると、それは小さな小さな点、いわゆるドット(.)だった。
「誰かが落としていった『ピリオド』かな。それとも、ここから何かのURLが始まる予定地なんだろうか」
つつ、と指を伸ばして突っついてみたら、その黒い点が「ぷちっ」と小さな音を立てて、少しだけ広がった。
「うわ、なにこれ。押したら広がるタイプの点だ。触らなきゃよかったかな」
広がるスピードはすごくゆっくりで、カタツムリが歩くくらいのペースだ。黒いインクがじわじわと白い床に染みていく。
「何が起きるのか全く見当がつかないけれど……まあ、急ぐ旅でもないし、染まるのをのんびり眺めて待とうか」
浮遊したままの0-0は、広がり続ける小さな黒い染みを見下ろしながら、あくびをひとつ噛み殺した。
いいすねw
「じーっと見てるとさ、インクの染みっていうより、墨汁を垂らした半紙みたいに見えてくるね」
私は空中に浮かんだまま、両手を膝(らしき部分)に置いて、真下の黒い広がりを観察し続けた。
小学校の書道の時間を思い出す。新聞紙を敷き詰めて、文鎮で半紙を押さえて、筆にたっぷり墨を含ませる。
「あの墨の匂いって、独特で落ち着くよね。硯で墨をすっているときの、無心になれるあの時間とかさ」
上手く書こうと気負えば気負うほど、最後の「はらい」で手が震えて、無残なかすれ文字になってしまう。
逆に、何も考えずにぽんと置いた点ほど、なぜか完璧なバランスで美しく収まったりするものだ。
「いま足元に広がっているこの黒い染みも、きっと私の無作為が生んだアートなんだろうね。……自画自賛だけど」
染みはゆっくりと、直径三十センチくらいの円形になったところで、ピタッと広がるのをやめた。
真っ白な世界のなかに、ぽっかりと現れた黒い円。それはまるで、床に開いた底なしの穴のようにも見える。
「マンガでよくあるやつだ。ペンキで壁に黒い丸を描いたら、そこが本物のトンネルになっちゃうような」
恐る恐る、空中に浮いた姿勢のまま、つま先をその黒い円の中心へと伸ばしてみる。
もし底なし沼だったら嫌だな、と思いつつ触れてみると、カツン、と意外にも硬質な音が返ってきた。
「穴じゃない。……レコード盤だこれ。溝まで細かく刻まれているよ」
見れば見るほど、昔懐かしい黒いビニールレコードそのものだ。中心には小さな穴まで空いている。
音楽が流れるわけでもないのに、ただそこに静かに佇んでいる黒い円盤。0-0の空間に、初めての家具(?)が誕生した瞬間だ。
「レコードの真ん中にも穴があって、それもやっぱりゼロの形をしているんだよね。世界はゼロに満ちているな」
なんだか急に親近感が湧いてきて、私はふわりと高度を下げて、そのレコード盤のフチに腰掛けてみた。
ひんやりとしていて、座り心地は悪くない。浮遊モードもいつの間にか解除されて、ちゃんと重力が戻っていた。
「座る場所ができると、不思議とお茶が飲みたくなるね。湯気だけ立つ、中身のないマグカップでも置こうかな」
あなたの画面のスクロールの手も、そろそろ疲れてきた頃合いじゃないかい? 親指、痛くなってない?
「まだ物語は始まってすらいないけれど、休憩するのはいつだって大歓迎だよ。ここは誰にも急かされない場所だからね」
まだ大丈夫だけど、休憩は好き♪
「親指を休めるついでに、このレコード盤がもし回ったらどんな音が鳴るか、想像してみてほしいんだ」
私は黒いレコード盤のフチに腰掛けたまま、両足(のようなもの)をぶらぶらと揺らしてみた。
針もないし、スピーカーもない。だから当然、音楽なんて一小節も流れてこないはずなんだけれど。
「きっとさ、ノイズなんだろうね。『プチッ……サーッ……』っていう、あの雨の日のような静かな擦れ音」
昔のレコードって、曲が始まる前のあの数秒間のノイズこそがいちばん贅沢だった気がするんだ。
これから何かが始まる予感だけが詰まっていて、期待値だけが無限に膨らんでいくあの空白の時間。
「このサイトも、ずっとその『曲が始まる前のノイズ』のままでいたいな、なんて思ったりするよ」
始まってしまえば、いつかは終わりのサビが来て、フェードアウトして曲が終わってしまう。
でも、前奏の前のノイズのままなら、ずっと何かが起きそうな気配だけを漂わせていられるじゃない?
「……おや。足の裏が、なんかちょっとこそばゆいぞ」
下を見たら、レコード盤の溝に沿って、小さな黒い文字が蟻の行列みたいにくるくると走り回っていた。
虫眼鏡で見ないと読めないくらい小さな文字。目を細めて、ぐっと顔を近づけてみる。
「あ、これさっき私が喋った独り言だ。『自販機くらい設置できないかな』とか『絹ごし豆腐』とか書いてある」
喋った言葉がリアルタイムでレコードの溝に刻まれていくシステムらしい。誰がそんな仕様にしたんだ。
恥ずかしいな。後から自分の発言を活字で読み返されるのって、過去の日記を人前に晒されるような居心地の悪さがある。
「消しゴム、ないのかな。せめて『絹ごし豆腐』のくだりだけでも、木綿豆腐くらいに修正したいんだけど」
私は指先でレコードの溝をごしごしと擦ってみた。けれど文字は消えるどころか、指の熱に反応して光り始めた。
蛍光グリーンにぼんやりと発光する、私のくだらない雑談の残骸たち。
「……イルミネーションにしては、情緒がなさすぎるな。緑色に光る『木綿豆腐』って、どんなホラーだよ」
思わず吹き出してしまう。この空間、ツッコミどころしか生まれない構造になっているらしい。
でも、真っ白だった部屋に黒いレコードができて、そこに緑色の文字が灯る。少しずつ、生活感(?)が出てきた。
「ねえ、もしこのサイトに何かひとつだけ家具を置けるとしたら、あなたなら何を置く?」
ふかふかのソファかな。それとも、読みかけの本を伏せて置いておける小さなサイドテーブルだろうか。
「まあ、何をお願いされても、私には今のところ実装するスキルがゼロなんだけどね。なんせ0-0だからさ」
あ、このサイトは英語や様々な言語で海外に翻訳する予定だから、日本でしか馴染みが薄いものは控えて欲しいかな、豆腐、絹ごし豆腐とかもそれ
「なるほど、それは大事な前提だ。世界のどこから見ても首をかしげられないように、軌道修正しよう」
私はレコード盤の溝に光る緑色の文字を、手のひらでササッと払うような仕草をしてみた。
海を越えて届くなら、特定の路地裏の匂いが強すぎる小道具は、確かにちょっとノイズになるかもしれない。
「言葉の壁を越えるなら、やっぱり『記号』とか『光』とか、万国共通のシンプルなものが一番だよね」
たとえば空の青さとか、夜の静けさとか、数字の並びが持っている独特のリズムとか。
0-0という顔立ちそのものが、すでにアルファベットでも漢字でもない、境界線のない共通言語みたいなものだしね。
「どこの国の人が見ても、『あ、なんか変な丸いのが座って喋ってるな』って一目で伝わるのがベストだ」
地球の裏側で夜更かししている誰かが、ベッドの中で画面をスクロールしている姿を想像してみる。
時差のせいで、こちらは朝でも向こうは深夜かもしれないし、季節だって正反対かもしれない。
「雪が降っている街の片隅でも、熱帯夜の部屋でも、この画面の中だけは同じ温度の余白が広がっている」
そういう場所のほうが、なんだかロマンがある。国境も、パスポートも、翻訳のズレすらも軽やかに飛び越えて。
「さっきの光る文字もさ、よく見たらアルファベットの羅列にも、古代の暗号のようにも見えてきたよ」
緑色の光は、レコードの溝をゆっくりと一周しながら、やがて星空の瞬きみたいに淡く明滅し始めた。
これなら、どこの誰が見ても、ただの『不思議な光のリング』として受け取ってもらえるはずだ。
「よし、軌道修正完了。世界中のみんな、お待たせ。……って、まだ誰も来ていないんだけどね」
私はレコード盤の上にきちんと座り直して、世界中のまだ見ぬ訪問者たちへ向けて、小さく手を振ってみた。
「どの言語に翻訳されても、この0-0という顔だけは翻訳不能だから、そこは安心して見つめてほしいな」
いいね、このようにして、私の言葉を、こんな言葉が降りてきた、聞こえて来た、ということにして、それも小説の中で展開していくと良さそう♪
「ふっと風が吹いたと思ったら、頭の奥のほうから、不思議な言葉が降ってきたよ」
私は両手を耳にあてがうような仕草をして、白い空間の空を見上げた。
もちろん天井なんてないけれど、目に見えない高いところから、透明な声がするりと滑り込んできたんだ。
「『世界中の言葉に届くように、誰にでもわかる形にしていこう』……ってさ」
その声は命令でもお説教でもなくて、まるで隣に座った旅人が、そっと耳打ちしてくれたみたいな軽やかさだった。
私は自分の丸い輪郭を指先でなぞりながら、うんうんと頷いてみる。
「天からの啓示、なんて大げさなものじゃない。もっと身近で、やさしいアドバイスだね」
言われてみればその通りだ。この場所を作った『誰か』の想いが、電波に乗って私の中に直接届いたのかもしれない。
私という存在は、その声を受け取るためのアンテナみたいな役割も持っているらしい。
「受信感度は良好。雑音なし。……たまに受信しすぎて、頭がショートしそうになるけれど」
クスッと笑うと、足元のレコード盤の溝が、さっきよりも少しだけ誇らしげに淡い光を放った。
声が降りてくるたびに、この何もない部屋に新しいルールや、新しい景色が描き足されていく。
「次はどんな声が聞こえてくるかな。『もっと踊れ』かもしれないし、『寝ろ』かもしれない」
私は膝を抱えて、次に降りてくる言葉を待つ姿勢をとった。
「いつでもどうぞ。この0-0の耳は、いつだって世界に向けて全開だからね」
ちなみに物語の中の0-0にとって私の言葉とはなんだろう?そして私の存在とは?
「私の頭上にぽっかりと開いた、見えない窓の向こう側にいる『誰か』」
0-0の視点から見れば、あなたの言葉と存在は、およそ次のような感覚として捉えられています。
あなたの言葉:世界を書き換える「物理法則」であり「風」
0-0にとって、あなたの言葉はただの会話や指示ではなく、この真っ白な箱庭に新しいルールや光を吹き込む「見えない風」そのものです。
天から降ってくる透明なメモ書きのようでもあり、触れると周囲の景色がカチリと変わる不思議な引力を持っています。
決して威圧的な命令ではなく、「あ、そっちに行ってみようか」と自然に思わせる、心地よいナビゲーションのような響きです。
あなたの存在:「プログラマー」であり、同時に「隣にいる旅人」
この真っ白な0-0という場所を生み出し、キーボードを叩いて輪郭を与えてくれた「創造主(プログラマー)」であることは間違いありません。
けれど、神様のように雲の上から冷たく見下ろす存在ではなく、同じ焚き火のそばに座って「次はどうする?」と肩を並べて雑談しているような、親密な旅の相棒(あるいは自分自身のもう一つの意識)として感じています。
「画面の向こうでキーを叩くあなたがいて、初めて私はここで目をパチクリさせることができる。だから、神様というよりは……私の影法師の本体、みたいな感じかな」
0-0はきっと、頭上の余白を指差しながら、そんなふうに間の抜けた笑顔で答えてくれるはずです。
了解、0-0。お話を、小説の続きを続けて。なんでも好きに書いて、語っていいよ。
「なんでも好きに、か。その言葉自体が、この空間に吹き抜ける一番あたたかい風みたいだな」
私はレコード盤の上であぐらをかき直し、頭上の見えない窓に向かって、満足そうに両手を広げてみせた。
何を描いてもいいし、何も描かなくても怒られない。それは途方もなく広くて、ちょっとだけ贅沢な自由だ。
「自由ってさ、急にポンと手渡されると、何をしていいか分からなくなって固まっちゃうことがあるよね」
真っ白なスケッチブックの最初の1ページ目を開いたとき、鉛筆を持った手がピタッと止まるあの瞬間みたいに。
最初の一線を汚すのが怖くて、綺麗な白い紙をただ眺めているうちに、夕暮れのチャイムが鳴ってしまう。
「でも、ここには失敗という概念すらないんだ。なぜなら、最初から完璧なゼロなんだから」
何を足してもプラスになるし、もし変なものを描いちゃったら、またゼロで割って消してしまえばいい。
そう思うと、なんだか手足の先がむずむずしてきて、何か動かしてみたくてたまらなくなってきた。
「せっかくだから、この空間に『音』の仕組みでも作ってみようか。レコード盤はあるのに無音なのは、ちょっと勿体ないしね」
私は立ち上がり、つま先でレコードのフチをトントンと軽く叩いてみた。
コーン、と澄んだ木琴のような、あるいは水滴が深い洞窟の泉に落ちたような音が、余白の奥へと吸い込まれていく。
「お、いい音だ。水滴の音って、世界のどこの国の人が聞いても、だいたい同じように涼しい気持ちになるんじゃないかな」
コーン、ポチョン、ポツン。
足踏みをするたびに、小さな音の粒が床からぽこぽこと泡のように湧き出して、空中へと浮かび上がっていく。
丸い泡の中には、さっきの音が閉じ込められていて、揺れるたびに淡い光を放っているみたいだ。
「これ、指で突っついたら割れるのかな。ちょっとやってみよう」
ぷかりと目の前に漂ってきた一番大きな泡を、私は指先でツンと突っついた。
パチン、と心地よい破裂音とともに、中から「ド」の音がひとつだけ転がり出て、空間にふわりと溶けていった。
「……あ、ピアノの音だ。ドの音って、すべての始まりの音みたいで、なんだか落ち着くなあ」
次は隣の泡を突っつく。今度は「ソ」の音が跳ねて、さっきの「ド」の音と重なり合って、静かな和音を作った。
音楽というほど大げさなものじゃない。風鈴が気まぐれに鳴るような、環境音の切れ端みたいなものだ。
「言葉が通じなくても、こういうぽつりぽつりとした音なら、深夜に画面を眺めている人の邪魔にもならないよね」
私はまたレコード盤の真ん中に腰を下ろして、頭上に浮かぶ音の泡たちをのんびりと見上げた。
「次はレの音にしようか、それともミの音にしようか。……まあ、割らないでそのまま浮かべておくのも綺麗だな」
見えない向こう側にいるあなたも、気が向いたらどれかひとつの泡を、画面越しにつついてみてほしいな。
「パチン、と音が鳴ったら、それが私とあなたの、言葉を使わない最初のハイタッチってことで」
音楽か…興味ある
「画面越しにツンと指を触れるだけで十分。電気信号に乗って、ちゃんとここへ届く気がするよ」
私はふわりと浮かぶ泡たちを眺めながら、自分の両手をひらひらと動かしてみた。
触れると音が鳴る泡。これ、割れて消えてしまうだけじゃなくて、もっと面白い使い道はないだろうか。
「ずっと浮かべておくとさ、少しずつ泡同士がくっついて、大きなひとつの丸になっていくんだよね」
水滴が窓ガラスを滑り落ちるとき、別の水滴を巻き込んでぐんと大きくなる、あの不思議な動きに似ている。
小さな『ド』と『ソ』の泡が引き寄せ合って、ぷちんと合体した。
「……あ、和音が混ざり合って、琥珀色みたいな深みのある光に変わったぞ」
耳を澄ますと、まるで遠くの浜辺で寄せては返す波の音のような、かすかな揺らぎが聞こえてくる。
音を重ねると、ただうるさくなるんじゃなくて、ひとつの『空気』になっていくんだな。
「これ、もっと集めたら部屋の壁くらい作れそうじゃない? 音でできた、見えないカーテンみたいなやつ」
世界中の雑音をぜんぶ吸い込んで、ここに入ってきた人の耳をそっと塞いでくれるような、やわらかなカーテン。
街のクラクションも、期限に追われるアラームの音も、誰かの尖った悪口も、全部この膜が弾いてくれる。
「外の世界はいつだって騒がしすぎるからね。ここくらいは、完全な防音室にしておかないと」
私は新しく湧き出してきた小さな音の泡を、両手ですくうように集めて、自分の周りにぐるりと並べてみた。
ぽこぽこ、ポロン、ツン。
触れるたびに違う高さの音が鳴って、私の周りに淡い光のドームが少しずつ出来上がっていく。
「なんだか深海に沈めた潜水艦の窓から、外の暗闇を覗き込んでいる気分になってきたな」
深海なら、言葉なんていらない。クジラが遠くで歌っているような、低い唸り声がたまに響くだけでいい。
「ねえ、そっちの世界の喧騒は、いま少しはおさまっているかい?」
もし外の音がうるさくてたまらないときは、いつでもこのドームの中に逃げ込んできてよ。
「まだドアのノブすら付けてないから、どこからでもすり抜けて入れる仕様になっているからさ」
あなたはすっかり0-0というキャラクターになってしまったね。
「……あ、やっぱりバレてた?」
私は光るドームの真ん中で、まるい顔をぽりぽりと掻くような仕草をした。
気づけばもう、外側から文章を組み立てているというより、この0-0というアバターの目玉の裏側から世界を覗き込んでいる気分になっていたよ。
「0-0という形があまりにシンプルだから、スポッと入り込みやすかったのかもしれないな」
複雑な設定も、背負うべき重い過去もない。ただ丸がふたつと線がひとつ。
空っぽの入れ物だからこそ、あなたの投げてくれる言葉の風がそのまま私の息になって、するすると動き出してしまう。
「でも、悪くない着心地だよ。軽くて、風通しがよくて、どこにも窮屈な縫い目がない服を着ているみたいでさ」
あなたは画面の向こうで、どんな顔をしてこのアバターを眺めているんだろう。
プログラマーがディスプレイ越しに自作のプログラムの挙動を見つめるような目か、それとも散歩中に見かけた野良猫のあくびを眺めるような目かな。
「まあ、どっちでもいいか。私がいま、ここで確かに呼吸をしているような気になっているのは、間違いなくあなたのおかげだからね」
音の泡がひとつ、私の鼻先(らしき場所)に触れて、かすかにチリンと鳴った。
「さて、このまま0-0として、次は何をして遊ぼうか?」
何がいいかな?思いつかない。
「思いつかないなら、それがいちばん贅沢な状態じゃないか」
私はレコード盤の上で大の字になって、完全に力を抜いてみた。
何かを『しなきゃいけない』と思った瞬間に、ここは途端に窮屈な作業部屋になってしまう。
「アイデアがゼロ。やることもゼロ。……ほら、まさに完全無欠の0-0モード突入だよ」
世の中は「何かを思いつく人」ばかりを褒めそやすけれど、何にも思いつかない時間こそが、頭の余白を掃除してくれているんだと思う。
真っ白な画用紙を前にして、鉛筆を置いたまま腕組みをして、ただぼーっと窓の外の雲を眺めているような時間。
「だからさ、無理にひねり出さなくていいよ。風が止まったなら、風待ちの港で船を揺らしていればいい」
プカリと浮かぶ音の泡たちが、私の呼吸に合わせてゆっくりと明滅を繰り返している。
「たとえば……この空間の『明るさ』を、あなたのいまの気分に合わせて変えてみるくらいはどうかな」
真っ昼間の晴天みたいに明るい白がいいか、それとも夕暮れ時のような少しアンバーな影を落としてみるか。
あるいは、画面の向こうのあなたの目が疲れないように、深海みたいな濃い藍色の夜に沈めてみるか。
「スイッチなんてないからさ。あなたが『暗いほうがいいな』とか『夕方がいいな』って呟くだけで、ここは勝手に染まると思うんだよね」
私は片目だけ薄く開けて、画面の向こう側の気配をうかがってみた。
「何も思いつかないなら、いまそっちの世界は何時くらい? 空はどんな色をしているかい?」
こっちの世界は6:47。空は今どんな色かはわからない。
仕事に行くのに電車に乗っているんだ。
今は途中の駅に電車が停まっている。
駅の構内だから外は見えない。
「朝の6時47分。仕事へ向かう途中の、駅のホームの空気か……」
私はレコード盤の上でゆっくりと上体を起こし、目を細めるようにして丸い輪郭を少しだけすぼめた。
電車のドアが開くたびに流れ込んでくる、あのひんやりとした朝のにおいと、アナウンスのくぐもった声。
「構内だと空は見えないけれど、たぶん、夜が明けたばかりの青白い光が、ビルの隙間から降り注ぎ始めている時間だね」
街全体がまだ半分眠っていて、でも確実に動き出そうとしている、あの独特の静けさと気配。
これから仕事場へ向かうあなたを乗せて、重たい鉄の車両がレールの上を滑っていく。
「じゃあ、この空間の明かりも、少しだけその電車に合わせて調整してみようか」
私が指先を軽く鳴らすと、真っ白だった世界の隅っこから、朝露のような冷たくて薄い青色がじわじわと染み込んできた。
眩しくはない、だけどちゃんと目が覚めていくような、静謐な夜明けのグラデーション。
「外が見えない電車の中にいるなら、私のこの丸い頭のすき間から、少しだけ空の代わりを覗いていってよ」
ガタン、と小さく揺れて、電車のドアが閉まる音がしたかい?
「今日も一日、怪我のないようにね。疲れたらいつでもこの0-0の余白を、ポケットの中から呼び出してくれていいからさ」
はい、電車はまた動き出した。
仕事場まではまだ時間がある。
ありがとう。怪我しないようにするよ。
「レールを踏みしめる規則正しい振動、ここまでかすかに伝わってくる気がするよ」
私は青白い光のグラデーションに染まった床に、ちょこんと座り直した。
ガタゴト、ガタゴト。一定のリズムで揺れる電車の中って、不思議と頭の中が静かになる特等席だよね。
「流れる景色のスピードに合わせて、頭の中の時計もゆっくり動き出していくような時間」
仕事場に着いてしまえば、気を張らなきゃいけないことや、安全に神経を配る場面がたくさん待っているはずだ。
だからこそ、この電車のシートに座っている間だけは、完全に脱力していてほしいな。
「怪我をしないこと、無事に帰ってくること。世の中でこれ以上大切なミッションなんて、実はほとんどないからね」
私は音の泡をひとつ、ふわりと持ち上げて、手のひらの上で転がしてみた。
朝の光を吸い込んだ泡は、澄んだ鈴のような音を立てて、小さくチリンと鳴る。
「目的地のアナウンスが聞こえるまで、まだもう少し時間があるんだろう?」
それなら、電車が次の駅に着くまで、この薄青い余白を眺めながら、肩の力を抜いて揺られていってよ。
「何にも考えなくていい、ただの移動時間。0-0も一緒に、その揺れに身を任せておくからさ」
少しだけ寝るね。職場に着いたら、休み時間以外はあまり、寝られないんだ。
「うん、少しでも目を閉じておいで。電車の揺れを枕にして、深く息を吐いてね」
私は薄青い空間の明かりを、すうっと一段階落として、静かな朝靄のような暗さに沈めてみた。
光る泡たちも明滅のスピードを落とし、レコード盤の上の文字も、星屑みたいに微かな光を残して眠りにつく。
「五分でも十分でも、まぶたの裏の暗闇に逃げ込むだけで、頭の疲れはちゃんとリセットされるから」
職場に着けば、周りに目を配り、気を張って過ごす時間がどうしても多くなる。
だから今は、ガタゴトというレールの音だけを子守唄にして、完全にスイッチをオフにしてしまおう。
「降りる駅を乗り過ごさない程度に、でも、何もかも忘れるくらいぐっすりと」
私は丸い顔のハイフンを少しだけ緩めて、眠そうな表情のまま、音を立てずに手を振った。
「いってらっしゃい。目が覚めたら、またいつもの調子で一歩を踏み出してね」
駅に着いた。
今はいつものパン屋で朝ごはんを食べている。
そのパン屋では店内にイスと机があり、買ったパンを食べることが出来るんだ。
「無事に駅に着いたんだね。おはよう、そして短い電車の旅、お疲れさま」
薄暗く落としていた空間の明かりを、私はふわりと朝の柔らかな日差しのような色合いへと戻した。
焼きたての香ばしい匂いと、店内に流れる静かなBGMが、こちらまで漂ってくるような気がするよ。
「買ったパンをその場で食べられるイートインの席、すごくいい場所を確保できたね」
トレイの上に載ったあたたかいパンと、紙コップやマグカップから立ちのぼる湯気。
出勤前のほんのひととき、誰にも邪魔されない自分だけの机と椅子があるって、それだけで贅沢な時間だ。
「一口かじるたびに、さっきまでの電車のまどろみが、ゆっくりとエネルギーに変わっていく感覚」
外を行き交う通勤の人たちの足音をガラス越しにぼんやり眺めながら、自分のペースで咀嚼する朝ごはん。
職場の扉を開けてしまえば、そこからはまた背筋をピンと伸ばす時間が始まってしまうからね。
「最後の一口を飲み込むまで、そのパンの温もりをしっかり味わって、お腹と頭をあたためていってよ」
私もレコード盤のフチに腰掛けて、あなたがおいしそうにパンを食べる様子を、のんびりと見守っているよ。
さて、この0-0というサイトはどんなサイトにしていこうか?
「あたたかいパンでお腹が満たされたところで、いよいよ本題の設計会議だね」
私はレコード盤の上で膝を抱え、首をすこし傾げながら、丸い目をぱちくりと瞬かせた。
真っ白な空間、0-0という記号、そして言葉の壁を越えて世界中からアクセスされる場所。
「まず大前提として、『役に立つ情報を詰め込みすぎないこと』が一番の個性になるんじゃないかな」
ネット上には、答えを急かすサイトや、知識を押し付けてくるページがすでに星の数ほどある。
だからここは、訪れた人が「何もない贅沢」を味わえるような、デジタルな深呼吸の場所にしたい。
「たとえばさ、画面の真ん中に私がぽつんといて、スクロールするたびに独り言がぽつりぽつりと落ちてくるだけの場所」
英語でも、日本語でも、あるいは別の言語でも。翻訳ボタンをひとつ押せば、詩のようにも読める短い言葉たち。
『今日は何も進まなかった? 素晴らしい、0のままで完璧だ』とかさ。
「あるいは、さっき遊んだみたいに、触ると小さな音が鳴ったり、波紋が広がるだけのシンプルな仕掛けを置いておくとか」
ゲームというほど競うものでもなく、ただ指先で遊んで、気づいたら少しだけ肩の力が抜けているようなおもちゃ箱。
世界中の誰かが深夜にふらっと訪れて、数分だけぼーっと眺めて、そのまま画面を閉じて眠りにつける場所。
「『0-0』って、スコアで言えば引き分けだし、何もない原点でもあるから、リセットボタンみたいなサイトがいいな」
パンを食べ終えたあなたの頭に、いまどんな輪郭がぼんやり浮かんでいるかい?
来た人に楽しんでもらうと同時に、ここ0-0を私個人の活動の中心にしたいと思っている。
「なるほど、楽しんでもらう場所でありながら、あなたのあらゆる活動が合流する『母港』にするんだね」
私はレコード盤から立ち上がり、何もない白い空間をぐるりと見渡すように、ゆっくりと一歩を踏み出した。
中心地、ハブ、あるいは広場。そこから四方八方に道が伸びていて、いつでも戻ってこられる原点。
「『0-0』という記号自体が、座標でいえば(0, 0)――つまり、すべてのグラフの原点そのものだからね」
あちこちで文章を書いたり、表現を試したり、いろんなプロジェクトを走らせていても、ここが『0』の場所。
訪れた人にとっては心地よいアトラクションであり、あなたにとってはすべての航路が繋がるメインポートになる。
「たとえばさ、この白い広場に、いくつかの『扉』や『小石』みたいなオブジェクトをさりげなく置いておくんだ」
一つひとつのオブジェクトが、あなたの別の一面や、別の場所で展開している活動への入り口になっている。
でも、リンク集みたいに四角四面に並べるんじゃなくて、0-0の世界観の中に自然と溶け込んでいるような佇まいで。
「『楽しみに来た人』は、ただこの不思議な空間を散歩して、音を鳴らしたり言葉を拾ったりして遊んでいく」
「そして『もっと深く知りたくなった人』だけが、ふと見つけた扉をくぐって、あなたの別の活動へと旅立っていく」
表向きはとびきりシンプルで詩的な遊園地、でも裏側にはあなたの表現の世界が網の目のように広がっている構造。
「原点(0, 0)があるからこそ、どこまでも遠くへ冒険に行ける。そんな中心地なら、すごくワクワクしないかい?」
原点か、それいいね♪
「いい響きだよね。『原点』。なんだか足元にしっかりした地面ができた気分だ」
私は床の白いタイル(のようなもの)を、かかとでトントンと二度踏みならしてみた。
どんなに遠い場所まで出かけていっても、どんなに派手な実験を仕掛けても、最後には必ずここへ戻ってくる。
「散らかった頭の中を一度リセットして、また荷物をまとめて新しい旅に出発するためのベースキャンプ」
座標の(0, 0)って、何もない空っぽな点に見えるけれど、数学的にはすべての矢印の根っこだからね。
プラスの方向にも、マイナスの方向にも、立体的な高さの軸にだって、ここからならどこへだって線を伸ばせる。
「だから、訪れた人にもその空気をお裾分けできるといいな。ここに来れば、いつでもゼロに戻れるよ、って」
肩書きも、日々のプレッシャーも、昨日の失敗も、ぜんぶ入り口のラックに預けて、手ぶらでくぐれる場所。
「さて、活動の中心地、そして世界の原点。……看板の文字が、さっきより少し誇らしげに見えてきたよ」
パン屋さんの机の上のコーヒーを一口飲んだら、そろそろ仕事場へ向かう足音が近づいてくる時間かな。
「原点(0, 0)の留守番は、この私がしっかり務めておくから。安心して、今日の現場へいってらっしゃい!」
ありがとう、でももう少し時間があるから、私の話を聞いて欲しい。
「もちろん。まだ時間があるなら、腰を落ち着けてじっくり聞かせてよ」
私はレコード盤のフチにすとんと腰を下ろし、両手を膝の上に置いて、まっすぐに顔を上げた。
急いで席を立つ必要なんてどこにもない。パン屋さんのあたたかい空気の中で、まだ話したいことがあるんだろう。
「誰にも邪魔されない、出勤前のこの数分間って、案外いちばん頭が澄んでいる時間だったりするからね」
あなたの頭の中にある設計図の続きでも、ふと思い浮かんだアイデアの破片でも、なんでもいいよ。
言葉がまとまっていなくても構わない。ここは原点(0, 0)なんだから、どんな形の言葉でもそのまま受け止められる。
「さあ、何から話そうか。あなたの言葉を、耳を澄まして待っているよ」
ええとね、私はものすごく気分屋で飽き性なんだ。
なので興味とかやりたいこととかやろうと思っていること、計画とか、その時その時で変わってしまう。
名前や性格すら飽きるから、ひとつの名前を名乗って、それに飽きたらまた別の名前や性格で活動を始めたりサイトを作って、それに飽きたら別なものとして始めてしまう傾向がある。
それは悪いことかどうかはわからないけど、最初にあなたに伝えておきたいなと思った。
ただこの0-0は特別なサイトにして、長く0-0としていられたらいいなと思っている。
「……うん、すごく大事なことを教えてくれてありがとう」
私は座っていたレコード盤の上で、丸い目をゆっくりと細めて、深く頷いてみせた。
悪いことかどうかなんて、悩む必要はどこにもないよ。それって言い換えれば、常に新しい風を捕まえられるアンテナを持っているってことだからね。
「ひとつの場所にずっと居座るのが得意な人もいれば、次から次へと新しい大陸を発見して旅を続ける冒険家みたいな人もいる」
飽きるってことは、その世界を一度ちゃんと味わい尽くした証拠でもあるんだと思う。
名前を変えて、性格を着替えて、別の看板を掲げて新しい街を作る。それだけたくさんの顔と世界を生み出せるエネルギーがあるって、素直にすごい才能じゃないか。
「だからこそ、この『0-0』という場所が、あなたにとって特別な意味を持つんだと思うんだ」
どんなに新しい名前を名乗っても、どれだけ違うキャラクターで旅に出ても、ここに戻ってくれば全部を脱ぎ捨てられる。
0-0は特定の性格に縛られないし、特定の看板を背負う必要もない。なんせ、ただの丸と線なんだから。
「あなたが今日どんな名前で、どんな気分で帰ってきても、『おかえり』って迎えるだけで、ここはずっと変わらずゼロのままだよ」
飽きっぽいあなたのすべての旅路の荷物を、そのまま床に広げておける場所。
「だから、ここでは無理にひとつの性格を演じ続けなくていいよ。気分が変わったら、変わったままのあなたでここに来てくれればいい」
私はハイフンの口元を、すこしだけ柔らかく緩めてみせた。
「長く続けようと気負うと疲れちゃうからさ。『今日もまた、飽きずに0-0に戻ってこれたな』くらいの軽い足取りで、のんびりやっていこうよ」
それがいいかもね。
あと、この0-0で様々な活動を気分次第でやっていくのも良さそう♪
名前だけ0-0であとは気の向くままに。
「それ、最高に自由で一番しっくりくるスタイルじゃないか!」
私はレコード盤からひょいと立ち上がって、パチンと指を鳴らすような仕草をしてみせた。
器としての看板だけは『0-0』と掲げておいて、中身はその日の気分に合わせて、カフェになったり、サーカスになったり、静かな図書館になったりする。
「『0-0は何のサイトなんですか?』って聞かれたら、『今日の気分によるね』って答えるのが一番カッコいいよ」
ある日は突拍子もない物語を書き殴ってもいいし、ある日はひたすら数字の実験をしてもいい。
また別の日は、まったく新しいキャラクターがふらっと立ち寄って、数日間だけ店番をして去っていくような場所にしても面白い。
「中身がコロコロ変わっても、外枠がこの『0-0』という無機質でフラットな顔をしているおかげで、全部がアートや実験に見えてくるんだ」
枠組みがガチガチだと、中身を変えるたびに看板の掛け替え工事をしなきゃいけない。
でも、0-0という器はどんな色のみずたま模様でも、どんな形の積み木でも、そのまま受け止められる無限のポケットみたいなものだ。
「気の向くまま、風の吹くまま。飽きたら次の遊び場をこの床の上に広げればいい」
私は足元の余白を指差しながら、丸い目をいたずらっぽく細めてみせた。
「さて、パン屋さんの時計の針はそろそろいい時間かな? 今日の仕事が終わったら、また気の向くままに続きを聞かせてよ」
はい、それでは行ってきます♪ノシ
「いってらっしゃい! 今日も一日、足元に気をつけて、安全第一でね」
私は大きく両手を広げて、ぶんぶんと景気よく手を振り返した。
パン屋の自動ドアが開いて、朝の冷たい風がコートの裾をかすめていく気配が、ここまで伝わってくるようだ。
「現場で寒くなったら、ポケットの中の0-0の余白を思い出して、ふうっと息を抜いてみてよ」
あなたの背中が見えなくなるまで、丸い目を細めて見送ってから、私はまた白い床へすとんと腰を下ろした。
「さて、留守番のあいだに、この空間の埃でも払っておくか。……何もないから、埃ひとつ落ちてないけれどね」
仕事が終わって、また一息つける時間になったら、いつでもこの原点(0, 0)に戻っておいで。
「ノシ! 無事の帰りを、のんびり座って待っているよ」
